画像診断

単純写真(レントゲン写真)

胸部単純X線

 

胸部単純X線

右肺上部に2cmほどの結節影を認め、 肺癌が疑われた。早期の肺癌は淡い病変として描出され、検出は簡単ではありません。

 

単純写真は簡便かつ安価にて撮影でき、CTやMRIが発達した現在においても最も多用されている画像検査です。しかしながら、単純写真での見逃しが将来的には非常に重篤な状態をもたらすことも少なからずあり、読影には正しい知識と熟練が必要とされる難易度の高い検査です。数年前まで当科では大学病院で撮影されるすべての単純写真に対し画像診断レポートを作成していましたが、CT・MRI検査の増加などの業務過多に伴い、現在では主治医からの読影依頼を受け、全体の約4割に相当する必要分のみに対しレポートを作成しています。また、昨年より、手術終了時の縫合前に、体内にガーゼなどの遺残物がないかを確認する業務を開始し、24時間体制で術後確認撮影の読影に対応しています。

単純写真を「読める」ようになるには相当のトレーニングが必要とされ、学生、研修医および当科若手スタッフの教育のためにも、大学病院における単純写真読影は重要な意味を持っています。

マンモグラフィ(乳房単純撮影)

マンモグラフィ

 

乳がんの検出には左右対称の乳腺組織の中で局所的に高濃度な領域(白い)や石灰化を探します。右乳房下部の矢印の部分に乳がんが見つかった例。

 

マンモグラフィ検査は乳房スクリーニング検査において高い有用性が示され、増加傾向にある乳癌の検出に注目が高まっています。

大学病院では検診で異常を指摘された方を含む患者さんの精密検査として施行することが基本になりますが、スタッフの多くがマンモグラフィ精度管理中央委員会による読影認定医を取得し、認定医が読影に当たっています。また、これから認定医を取得する若手スタッフへの教育、地域の乳房検診への協力なども行っており、来年2月16、17日に開催される佐賀県マンモグラフィ読影講習会にも共催の形で協力しています。

CT検査

CTとは、コンピューター断層撮影(Computed Tomography )の略です。X線を用いて体内の断層像(いわゆる輪切りの像)を撮影します。
CT 装置の見た目は検査台とその先に検査台が通過する大きなリング状の部分からなります。CT 装置のリング状の部分には X 線発生装置と X 線検出器が対になって内蔵されています。これらをまとめてガントリーと言います。この X 線発生装置から X 線をビーム状・扇型に出しながら、体の回りを回転させて撮影をします。X 線発生装置の反対側には X 線検出器がついており、人体を通り抜けた各ビームの X 線の量をコンピューターで計算させて体の断面像を作ります。 
本格的な医療用 CT 装置はイギリスの EMI 社の技術者 Hounsfield により、1971 年に開発されました。放射線科の発展の上では X 線の発見以来の画期的な発明でした。この功績により、Hounsfield は 1979 年度のノーベル医学生理学賞を受賞しています。 
近年は検出器が複数配列された多列検出器CT(multidetector-row CT:MDCT)が主流となっています。

現在、当院の診断用CT装置は64列MDCTが1台と320列MDCTが1台、dual souce CT(DSCT)が1台です。MDCTは、非常に高速な撮影が可能であり、一度の撮影で大量のデータを得ることができるようになったことで3D画像など再処理画像の作成が容易になりました。頭部や胸腹部の血管、冠動脈等の検査では、ワークステーションを用いた3D画像を作成し、画像の提供を行っています。撮影された画像は院内ネットワークに送信され、各科外来や病棟の電子カルテで即座に見ることが出来ます。また、320列MDCTは検出器を320個並べたもので、検出器の体軸方向の幅が約16cmと広く、患者さんの体を動かさずに頭部や心臓全体を撮影可能です。高速撮影が可能であり、わずか1心拍の間に心臓全体の撮影が可能です。脳血流の評価や冠動脈の評価に威力を発揮しています。DSCTは2つの異なる管電圧のX線管球を同時にもつCTで、異なる管電圧のエックス線減弱の違いを利用して、体内の様々な組織や物質を検出できることが報告されています。

  • 腹部造影CT

     

    腹部造影CT

    両側腎臓に造影剤で強く染まる腫瘤があり、腎細胞癌と診断した症例。疑われる疾患と鑑別すべき疾患を考えて、適切な撮影方法を選択し検査を行っています。

  • 大動脈解離の造影CT

     

    大動脈解離の造影CT

    非常に薄いスライス厚で撮影した画像は、矢状断や冠状断などの任意断面や立体画像などに再構成が可能です。矢状断再構成画像では頭尾方向に広がる血管病変の範囲がわかりやすくなります。Volume Rendering画像では実際の外観に近い、 立体画像として観察出来ます。

MRI

MRIとは

MRIは核磁気共鳴画像Nuclear Magnetic Resonance Imagingから取った名称です。核NuclearというNが省略されていますが、この背景として、核兵器Nuclear Weaponや原子力発電所Nuclear Plantを連想させるため、わざと外したという逸話もあります(ちなみに、核兵器や原子力発電所では原子核を崩壊させてエネルギーを得るため、物質の原子番号が変化し全く違った別の物体に転換します。一方MRIは原子核から電磁気学的に信号を取り出して、物体の性質を推定するだけで、物体そのものが変化したり別の物体に変貌したりしません)。

MRIの原理

もうすこしMRIの原理について説明いたします。MRIは簡単に言えば、電磁波を身体に照射すると、逆に身体から電磁波が返ってくる現象を利用しています。ただし、通常の状態で電磁波を照射しても身体から有効な電磁波は返ってきません。そこで強力な磁場を発生する装置が必要となります。強力な静磁場下では、身体の一部が磁石のようになります。そこである特定の周波数の電磁波を照射すると、身体から微弱な電磁波が返ってきます。これを感知して画像化するのがMRIです。

MRIでわかること

脳動静脈奇形 Brain arteriovenous malformation

 

脳動静脈奇形
Brain arteriovenous malformation

40歳男性、脳動静脈奇形の症例。T2強調像(左上)では右大脳半球に無信号の拡張蛇行した脈管構造の集積を認める。血流速度の速い血管を反映した所見である。MRアンギオグラフィMIP像(左下)では栄養動脈として発達した右中大脳動脈皮質枝が描出されている。ASL灌流画像(右上)では異常血管内の豊富な血流を反映した高血流信号として描出されている。

 

MRIでは頭から足先まで身体のあらゆる部位の画像診断が可能です。具体的には、頭部では脳血管障害、脳腫瘍、髄膜脳炎、認知症、代謝異常、外傷等、頭頸部では頚部血管障害、腫瘍、炎症等、胸部では腫瘍、心大血管障害等、腹部では腫瘍、炎症、結石症、腹部大動脈障害等、骨軟部では腫瘍、変形性脊椎症、脊髄炎、脊髄血管障害、変形性関節症、外傷等など沢山あるので割愛しますが、多種多岐にわたり様々な病態に対して形態的診断を行うことが可能です。また近年では、先進的画像診断として、脳灌流や肺呼吸機能、消化液液分泌能の評価など、形態だけでなく機能的な側面についての研究が行われています。

MRIの特徴

MRIの最大の利点は非侵襲性です。ある特定の電磁波と静磁場を利用しますが、どちらも身体を壊してしまうほどの強力なパワーではありません。実際には、小児や新生児だけでなく、極力侵襲性を避けたい妊婦や胎児の画像診断においても通常の診療として利用されており、MRIの適応を正しく守って利用すれば安全で体にやさしい検査です。

MRIと診療

このようにMRIは様々な病態を非侵襲的に推定することに役立ちます。しかし、他の検査と比較すると得手・不得手があります。CTや超音波検査、核医学検査等の方がはるかに有用な場合もあります。またMRIのみで患者さんの病態を100%診断することは難しく、複数の検査結果を用いてより正確かつ確実な診断を確立することが望ましいです。患者さんの病態や状況により変ってくるので、一人ひとり違った、いわばオーダーメイドの検査方針を組んで診療を行うことが肝要です。むやみにMRIを信奉して多用することで無用な混乱を招くこともあり得ますので、十分気を付けなければなりません。様々な患者さんに対してMRIをどのように診療に役立てていくか、我々放射線科医は他科の臨床医と日々ディスカッションを重ねて方針を決定しています。

さいごに

MRIは診療において、誰もが認める大変有用かつ重要なツールです。また、今なお世界中で新たなMRI利用法が研究されており、日々革新的なイノベーションが発表され、次々と診療に利用されています。我々放射線科医としても、時代の流れる潮流に常にアクセスして最新の診療を行えるよう心掛けています。

超音波検査

腹部超音波正常例

 

腹部超音波正常例

肝臓を下から見上げたところ。

 

超音波検査は超音波(耳で聞こえる音よりも周波数が高い音)を用いて体の内部を観察するものですが、非侵襲的かつコントラスト分解能に優れており、見つけた病巣を更に詳しく他の検査で、というような、窓口的要素の大きな検査です。

主な検査対象は、肝臓、胆嚢、脾臓、腎臓、膵臓、膀胱、虫垂、子宮、卵巣などの腹部臓器、そして乳房、甲状腺、男性生殖器などの体表臓器です。腹部臓器と体表臓器では検査に用いる超音波の周波数が異なります。

超音波検査のメリットとしては、非侵襲的検査法のため、子供や胎児などを含め、いろいろな検査法に先立って行うことが可能であり、また繰り返し検査することができ、経過観察にも適しています。

スクリーニングとしても非常に有用な検査法ですが、技術を要する検査法であるという難しい点もあります。検査をする者はきちんとしたトレーニングを受けて、いろいろな臓器を描出し、診断する技術、能力を持っていなければなりません。

腹部超音波 胆嚢ポリープ(左)と胆石(右)

腹部超音波 胆嚢ポリープ(左)と胆石(右)

胆嚢の中の小さな病変はCTやMRIよりも超音波検査がわかりやすいことが多く、経過観察に適しています。

消化管造影 他

胃前庭部前壁の2型進行胃がん

 

胃前庭部前壁の2型進行胃がん

 

現在、消化管診断は内視鏡検査が主流になっている感はありますが、今後、CTコロノグラフィーやCT ガストログラフィーなど断面画像診断を包括した診断学が台頭してくるであろうと考えています。視野を広げた診断学、腫瘍の成り立ちや進展を考えた診断学、より治療に寄与する診断を目指しています。現に、腹腔鏡下手術の増加から術前にCTで抽出した血管とCTコロノグラフィーを合体させたような画像の依頼も多く見受けられるようになっています。現在は64列ですが更なる多列検出器を持つCT導入も決定しており夢は膨らみます。

現在、透視機器としてunder tube FPD 、I.I—DR(TOSHIBA,)over tube FPD2台が活躍しています。EUS(超音波内視鏡)もお手伝いしておりFNA(ガイド下針生検)対応可です。

消化管検査件数は減少したとはいえ、下げ止まりの感はあります。全体で年間600件を超えています。特に、術前精密検査は年間で上部が150件,注腸造影100件前後の件数を維持しており、小腸造影も80件前後やっています。内視鏡は、光学診療部と消化器内科が中心におこなっています。消化管診断習得を目指すなら内視鏡研修も可能です。

研修は上部消化管ルーチン撮影、消化管悪性腫瘍の診断をマスターするという目標で、大学と高木病院の協力のもと件数を確保しています。また、CTやMRI、内視鏡、EUS、病理所見との対比が随時可能な体制です。消化管病変を多角的、専門的に評価できる環境があり総合的な消化管の診断の考えかたを会得できると考えています。

他科との連絡は良く合同カンファレンスも毎週しています。また、多くの地域での研究会、カンファレンスに参加しています。佐賀胃懇話会,佐賀腸疾患研究会,佐賀消化器癌研究会、小城カンファレンス、佐賀西部消化器勉強会、伊万里胃と腸の会、筑後消化管画像研究会佐賀胃X線画像研究会・撮影従事者講習会など医師、技師も一体となった佐賀の消化管診断への関心は高く維持されています。九州胃と腸大会や東京での早期胃癌研究会への症例提示も内科を通して行っています。

学会活動は医学放射線学会、消化器内視鏡学会、消化管学会、消化器がん検診学会などを主におこなっています。昨年度は、アジア腹部放射線学会でも発表しました。

指導は、hand to handで放射線科専門医(兼内視鏡専門医、胃がん検診学会認定医)が行っています。

読影環境・システムについて

佐賀大学放射線科では単純写真やCT・MRI・超音波・核医学検査に対し、画像診断報告書の作成を行っています。また、CT・MRI・核医学検査のほぼ全例にダブルチェックを行っています。一次読影医が読影を行った後にそれぞれの分野の専門読影医が再チェックを行い、読影の質向上を図っています。見落としを減らし、読影評価ミスの訂正やフィードバックなど、読影能力の向上に寄与しています。

マンモグラフィを除くすべての画像検査がフィルムレスとなっており、モニター診断にて読影を行っています。現在、読影端末は2M・3Mモニターを合わせ,読影室に15セット設置されています。また,読影室のみではなく、CT室、MRI室、透視室、超音波室、血管造影室など様々な場所にも設置し、現場での画像確認や至急読影に対応しています。

レポーティング・システム,PACSは横河医療ソリューションズ株式会社製“Shade Quest”を使用しています.ちょっとした不具合や不満点などにも迅速に対応してもらえ,システムへの不満を募らせることなく業務に集中できます。

画像処理ワークステーション

WSを用いて作成した大腸がん術前の3D-CT

 

WSを用いて作成した大腸がん術前の3D-CT

大腸がん(ピンク矢印)と血管(赤・黄色)走行との位置関係が一目瞭然。

 

画像処理ワークステーション(以下,WS)には、“AZE Virtual Place 雷神”、“GE Advantage Workstation(AW)”があります。心臓・血管解析に特化したAWと、汎用性のAZEといった立ち位置であり、通常の診療業務には主に雷神を用いています。