放射線治療

放射線治療一般について

放射線治療は悪性腫瘍などの病変に放射線を照射して、その縮小・消失を目指す治療法です。治療中(放射線が当たっている間)は痛みや熱さなどまったくありません。また放射線治療は他の治療法より合併症や有害事象が少なく、機能や形態を保てる利点があります。また治療時間は数分から十数分程度と、時間があまりかかりません。後述します高精度放射線治療など、最近の放射線治療の進歩により、正常組織の障害を最小限にして病変には十分な放射線を照射することが可能になりました。それにより前立腺がんや頭頸部がんなど手術と同等の治療成績があげられる疾患も増えています。 悪性腫瘍患者の増加や患者・医師の知識・関心の高まりから、放射線治療患者数は近年増加しており、佐賀大学病院においてもその数は漸増傾向で、数年前の約2倍となっています。

佐賀大病院の放射線治療部門

H24年8月現在の当院の放射線治療部門スタッフは、放射線腫瘍医3人(全員放射線治療専門医)、治療担当の診療放射線技師が5人(1人は放射線治療専門技師、別の1人は医学物理士の資格を有しています)、看護師は2人です。人員も少しずつ拡充が図られていますが、症例数の増加、診療内容の高度化や研究等を考えますと、より充実が望まれます。

放射線治療を施行する日は毎日13時よりすべてのスタッフが集まって新規患者の紹介、症例の検討や職種間の打合せを行っています。また月に1回、放射線部の各職種の長も含めて部門全体の会議を行っています。これらによりチーム医療の円滑な運用を目指しています。

放射線腫瘍医

放射線腫瘍医は、診察や画像等の検査により、全身状態や病変の進展範囲等の把握をした上で、治療計画を行います。具体的には治療範囲や線量分布(放射線の当たり方)、治療スケジュールなどを決定します。治療範囲等はCT画像をもとに三次元的に決めていきますが、MRI, PETなどの画像も参考にします。通常の外部照射には5~7週間かかりますが、その間の診察や経過観察も行います。小線源治療においては、患者に小手術的介入も行います。

高精度放射線治療

定位放射線治療

従来も頭部-上頚部には定位放射線治療を行っていましたが、それに加え、肺や肝など体幹部にできた比較的小さい病変に対しても、短期間に大量の放射線を照射することが可能になりました。 肺がんなどで良好な成績が得られつつあります。

強度変調放射線治療(IMRT)

病変が重要臓器(脊髄、腸、唾液腺など)に接している場合、各方向の照射ビームに強弱をつけることにより、重要臓器の有害事象を少なくして、病変には十分な量の照射を行うことができる治療方法です。

呼吸同期放射線治療

呼吸により肺などの臓器は常に移動しています。その呼吸の移動に合わせて放射線を照射することで、正常組織への影響を減らして腫瘍細胞を重点的に照射することが可能となります。

当院においても体幹部を含む定位放射線治療、呼吸同期放射線治療は以前から施行していましたが、IMRTもH24年1月から開始しており、順調に症例数も増えています。

転移性肺がんの症例:放射線治療計画

転移性肺がんの症例:放射線治療計画

転移性肺がんの症例:CT画像

転移性肺がんの症例:CT画像

学生や研修医の方々へ

当院の放射線治療部門の特徴として、 すべての臓器・領域の疾患をカバーしていることや同規模の大学病院の中では症例数が多いことがあげられると思います。同規模の大学病院でも、非常に少ない臓器・領域があることが多いようです。平成21年度の実績では、病床数600床程度の国立大学附属病院16病院の中で、放射線治療実施症例数は第3位、放射線治療計画数は第1位でした。各症例の診療にあたっては、カンファレンスやキャンサーボード等で各診療科と検討し、最良の治療を目指しています。

当院は日本医学放射線学会、日本放射線腫瘍学会の認定施設になっており、当院のみの研修でも放射線治療専門医になることができます。また上記、九州国際重粒子線がん治療センターと重粒子線治療や高精度放射線治療の診療・研究も行っています。さらに放射線医学総合研究所、国立がんセンター、静岡県立がんセンターなどの他施設への研修(国内留学)も実績があり、これらの施設で(興味を持った)特定の分野でより深く研鑽を積むこともできます。また多くの大学やがんセンターと一緒に、放射線治療に関する多施設共同研究も行っています。佐賀大学内での研究ももちろんですが、共同研究においても、当院のスタッフが筆頭演者や研究代表者として、国際学会を含む学会報告や、論文報告を行った実績があります。

日本全体でも不足している放射線腫瘍医の拡充が、がん対策基本法の制定などによって社会的・政策的にも目指されています。放射線腫瘍医は、自分の得意分野が持てる専門性が高い領域であることと、臓器にとらわれず全身や患者さん自体をみることの、一見矛盾する2点を満たせる仕事ができます。他診療科医からも専門家として尊重されますし、(血をみることなく)がんが治って患者さんに感謝されることはとても嬉しいことです。当院では放射線治療を全般的に、複数の放射線治療専門医の指導で研修することが可能です。興味ある方は是非一緒にやりましょう。